ドミナント・マイナーって何?Vm7のファンクションについて1

こんにちは、枡田咲子です。
今回は少し踏み込んだ内容で、マイナー・キーにおけるファンクションについて、とくにナチュラル・マイナーのVm7の扱いについて、私なりの考えをまとめてみたいと思います。
というのも最近、ナチュラル・マイナーのダイアトニック・コード『Vm7』のファンクションが ”ドミナント・マイナー” という表現を目にする機会がありました。
ただ、私は学生時代(音楽専門学校、音楽大学)に、『Vm7のファンクションはドミナント』と学びました。
一方で、Vm7を『ドミナント・マイナー7th』と記載されている本もあります。
Vm7はドミナントなのか?ドミナント・マイナーなのか?を、あくまで一つの視点として考察してみたいと思います。
※この記事は、基本的なジャズ音楽理論やジャズ・ハーモニー(コード進行)を一通り学んだ方やジャズ音楽の教育に興味がある方向けの内容となります。ファンクションをこれから学ぶ方にとっては、やや難しく感じられる部分もあるかもしれませんが、用語や考え方の整理という視点から読んでいただければ幸いです。

マイナー・キーのコード・ファンクションについて
コード・ファンクションを考える上で重要なのは、『そのコードがコード進行の中でどのように機能しているか』ということです。
まず、スケールでみたとき、
- 第1音:主音/トニック
- 第4音:下属音/サブドミナント
- 第5音:属音/ドミナント
が、コード・ファンクションと強く関連づけられていると考えられます。
メジャー・キーの基本のコード・ファンクションは比較的シンプルです。
- Imaj7:トニック
- IVmaj7:サブドミナント
- V7:ドミナント
では、マイナー・キーにおけるファンクションはどのように考えればよいでしょうか?
マイナー・キーのコード・ファンクション
マイナー・キーは、
- ナチュラル・マイナー
- ハーモニック・マイナー
- メロディック・マイナー
という3つのスケールから成り立ちます。
クラシックの理論では、メジャー・キーでもマイナー・キーでも作曲する際には、必ず導音(リーディング・トーン)の必要があると定義され、和声(ハーモニー)においてダイアトニック・コードを作るとき、マイナー・キーの場合ハーモニック・マイナーを用います。
ジャズ・ハーモニーであっても、マイナー・キーにおいては同じことが言えると考えられます。
つまり、ハーモニック・マイナーのダイアトニック・コード、
- Im(maj7):トニック・マイナー
- IVm7:サブドミナント・マイナー
- V7:ドミナント
これが、マイナー・キーにおける基本のコード・ファンクションと捉えることができます。
ジャズ・ハーモニーでは、Imや、IVmは、メジャー・キーにおける対応するコードと比べて、第3音が半音下がったマイナー・コードであるため、トニック・マイナーや、サブドミナント・マイナーといったファンクションとして扱うことができます。
V7は本来の終止を目的とした『ドミナント』が基本のファンクションだと考えられます。
『ハーモニック・マイナー』という名称自体が示すように、このスケールは和声において重要であると思いませんか!?
Vm7のファンクションについて
ジャズ・ハーモニーでは、クラシック音楽と比べ、より自由なコード進行や音使いでが用いられ、状況に応じてマイナー・スケールを使い分けます。
そこで、マイナー・キーを構成する3つのマイナー・スケールを、それぞれ独立したものとして捉え、スケール単体でダイアトニック・コードを見ていくと、ナチュラル・マイナー・スケールからVm7が導き出されます。
ここで、Vm7の疑問が生まれます。
まず、なぜVm7のファンクションをドミナントと考えるのか?
Vm7をドミナントとして考える
ジャズ・ハーモニーにおいても、ドミナントの終止は、 V7 → Im が基本と考えられますが、ジャンルの多様化から様々なコード進行が生まれ、Vm7 → Im もよく耳にするコード進行になってきました。
では、Vm7 → Im の進行で、Vm7をなぜドミナントと考えることができるのか?
- V7でなくVm7であっても、ルートが完全5度下に進行(ドミナント・モーション)しているため
- V7(#9)の簡略化したコードと捉えることができるため
と、私は捉えています。
V7(#9)は、3つのマイナー・スケールを統合して考えられるダイアトニック・コードです。
Vm7は、V7(#9)の第3音を省略した形として考えることができます。
つまり、Vm7 → Im7 の進行は、V7(#9) → Im7 の変化版のように解釈することもできるのではないでしょうか。
このような考え方は、メジャー・キーでは成りたちません。
私は、ドミナントというファンクションは、とても強力なものだと考えています。
ドミナントの語源であるラテン語 dominari (支配する)という言葉を思い浮かべると、その性質はとてもわかりやすいのではないでしょうか。
Vm7をドミナント・マイナーとして考える
それでは、『ドミナント・マイナー』をどのように考えればよいのでしょうか?
上記で述べた、Vm7 → Im7 という進行も、ドミナント・モーションではありますが、V7→ Im7 に比べると終止感はやや弱く、ドミナントでありながらマイナーの響きを持つということから、『ドミナント・マイナー』と呼ばれるのだと考えられます。
『ドミナント・マイナー』は、ドミナントとして機能しながらも、マイナー・サウンドを持つコードの性質や聴こえ方を、より詳細に分析するために使われているのではないかと思います。
Vm7 も、メジャー・キーにおける対応するコードと比べて、第3音が半音下がったマイナー・コードであるため、『ドミナント・マイナー』と考えられ、理解しやすいものです。
しかし理論上、その呼び方だけでVm7の機能を十分に説明できてしまうのであれば、
『ドミナント・マイナー』はすでに独立したファンクションとして存在していたと考えられます。
近年この言葉が使われ始めた背景には、音楽表現の多様化により、従来の分類だけでは説明しにくいコード進行が増えてきた、という事情があるのではないかと思います。
まとめ
Vm7の基本的なファンクションは『ドミナント』として捉えても問題ないと個人的には考えています。
なぜなら、マイナー・キーにおいては終止を目的としたV7をドミナントの基本形と考えることができ、Vm7はV7(#9)を簡略化・変形したものとして捉えることも可能だからです。
ただし、Vm7は聴こえ方がマイナー・サウンドであることから『ドミナント・マイナー』と解釈することもできます。
音楽理論の用語や概念は、時代や研究の進展とともに整理・更新されていくものだと思います。
今後、音楽機関や研究分野において『ドミナント・マイナー』という言葉が、どのように位置付けられていくのか、その行方を、私自身も一人の音楽家として興味深く見守っていきたいと思います。
次回は引き続き、Vm7はどのような時に『ドミナント・マイナーとしてどう捉えるか』について考察してみたいと思います。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
【筆者プロフィール】
- バークリー音楽大学 ジャズ・コンポジション科卒業
(同大学ハーモニー部門よりアレックス・ウラノウスキ・アワード受賞) - 国際ジャズ作曲コンペティション優勝、音楽専門学校にて20年以上音楽教育に携わる

